消滅していく小規模受託機械設計事務所 日本の物つくりの時代の終焉の始まりが来たようだ

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今年はオミクロンで始まりました。余りパッとしない機械設備業界。団塊世代が定年退職し、受託の機械設計事務所も老化の波に逆らえず段々減少しているようです。もともと受託機械設計は儲からず儲けているのは大企業に大量に設計技術者を送り込んでいる派遣業務型設計事務所のみです。受託機械設計は時間給も床屋さんほどにはもらえず、しかも不安定、経済の波にいつも翻弄されているハイリスクローリタ-ン業です。しかも結構なスキルを要求される。これでは若者がこの業務に就くはずもなく、やがて消滅していくのではと思われる。

 この理由にはいろいろある。まず儲からないのが最大の原因だろう。ある程度の売り上げをコンスタントにあげるには慣れた顧客の仕事で、かつリピ-トものをコンスタントに受注しないとダメなようだ。ちょつとワ-クの一部の形状が変わったとか、一部加工工程が変更されたとかいう前例資料付の設計ならば設計内容は事前に予想されるので、後はやっつけ仕事。こういうのが工数が貰えて売り上げがあがる。こういうリピ-ト設計は余り高度な考案設計能力も要求されないのでいい。ただ仕事は面白くない。しかしながら殆どの機械設計でのコンスタントに売り上げをあげている受託業務はこのような設計である。長く付き合って設計仕様規格に慣れていて、リピ-トの定型的な仕事をもらう、これしか最低の生活を営む程度の収入を得る方法は無いような?

 これはちょつと余談だが、大手の一部上場しているような機械メ-カ-の設計社員は、意外にも図面が描けない。極端な場合、ピン1本、図面に描けない。そんなことがあるのか?と思いきゃ、私も最初は信じられなかったが、何度もそんな経験をしてしまった。思えば私も学校出たばかりの頃は、全然描けなかった。一応大学で製図の講義はあって、ポンプとかウインチとかの課題は提出したが?物を形に図面化するという作業は言葉と同じで使い慣れないと自由に使えない。なん千枚、なん万枚とか作図しているうちに言語のように、作図の過程で構想が生まれようになる。言葉でものを考えるように、作図で構想や新機構を思いつく。そのためには膨大な時間を要する。言語を一つ覚えると同じくらいの時間が要る。そんなわけで、大企業の設計社員も、入社数年くらいの若手は大半絵が描けない。博士業を持っている技術者も同じだ(あの博士号もっている社員、絵も描けないぞ!とか陰で外注に笑われているのを知っている)。だから、受託の機械設計業が生まれたのだろう。外注に出したほうが安く早く図面化出来るからだ。

 逆に儲からないのは一発もの、新規開発みたいな設計である。勿論前例のない、世界で唯一の機械を設計しなさいということなので、厳しい場合は、そんな機械は設計可能か?などということもありそう。

こういう仕事は小さな鉄工所とつきあうと貰える。小さな鉄工所は営業力が無いので、こういうやっかいな、他の企業が逃げてしまった仕事を拾ってくる。しかも高度な設計考案能力を要求されるのに単価が安い。こういう仕事は運が悪いと時給1円にもならない。レイトは値切るし、要求は無茶ブリ。運悪く、こんな悪魔のような顧客に遭遇したらしばらく地獄を俳諧することになるから、うまく喧嘩せず撤退すること。

 私も大昔、****ロ-ル(***プリンタ-のドットの背面**ロ-ル)の自動挿入機とかいうのを設計したことがある。手作業で行われている現場を見させてもらい、この作業を完全自動化したいということであった。手作業業務はかなり過酷のようであった。熱したふにゃふにゃのゴムロ-ルに鉄の心棒を刺す作業なので、熱い、暑い、従業員が嫌がるのは当然。勿論参考例が無いので、手作業の工程を注意深く観察して、いろいろ無い知恵を絞ったもんだ。もっとも難関とおもわれる工程で、ある機構を思いつき、なんとか幸いに試作一発で自動化機械は完成。この機構を思いつくに2週間くらい夜も寝ながらも考えた。それと設計過程で、ある程度構想が固まるまでが精神的にキツイ。頭の中で構想が固まるまでは毎日が悶々とした日々。2週間、3週間、1か月と毎日悶々として悩むのは辛い。そんな時、ハッと何か思いついた時の喜びは想像を絶する程嬉しいが。そんな苦しみに対応するような見返りは無いので辛い。まぁ、あんなに頭使ったのは、他にCAD関係の周辺機器を考案していた時以外は無い( ´艸`)。したがって、こんな類の仕事を受託で請け負ったら地獄だ。生活も苦しくなる。労多くして益少なし。というか、そんな仕事ばかり受託したら多分生きていけない。まぁ、日本の零細鉄工所は、そんな受託機械設計業者を犠牲にして成り立っている。だから、恐らく日本の将来のものづくりも底辺がこんな状況だから、段々消滅していくものと思われる。 

 このように受託機械設計業はハイリスクローリタ-ン業なので、新参者が出てこないのは当たり前。請負業の中で、もっとも恵まれない業界なのだ。だからちょつと大きくなると、設計事務所は殆ど技術者派遣業に業態を変える。受託機械設計は日本では生きていけないからだ。

技術者派遣型設計事務所も弱小だと、似重派遣、賛重派遣が横行しているようだ。大手の製造メ-カ-は自社への技術派遣専用の派遣小会社を持っている。こういった子会社は親会社を定年で辞めた人の受け入れ先となって役員となって雇用される。弱小設計事務所はこういった子会社経由でないと受託設計業務も派遣業務ももらえない形にしている。それはいいのだが、その手数料がまたべらぼうとも思われるほどに高額。ただ伝票を通すだけで売り上げの2~3割も手数料を取られるのも珍しくない。こうやって大手のメ-カ-は子会社と共謀して外注から利益を吸い取る。利益のたらい回しをしているわけだ。大手だけが儲かる利益の循環構造。おかげで吸い取られた零細の外注はやせ細る。底辺だけがやせ細っていく日本のものづくり。やがてやせ細った底辺が維持しきれず崩れる時が来る。それは今のような気がする。そして底辺が崩れると、土台を無くした大企業のメ-カ-も時間差をおかず崩れ始める。最近のメ-カ-の不祥事はその兆しかもしれない。もう間もなく日本の物づくりの時代は終わりを告げるのだろう。土台を失った建物がどのように崩れていくかは誰にも分からない。

 

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